評論

絵の中に生み出された、一つの物語。

Tomo氏によって創り出された作品は、寓話的な要素もあり、哲学の考察でもあり、1つの物語として完成されています。そして、「生命」という人間の命題をも表現しています。しかしどの作品にも主人公の姿はなく、絵の中の出来事の観察者であったり、参加者であったり、それぞれのモチーフが画面上で対話をしていて、まさに1つの物語を読んでいるかのようです。

Tomo氏の作品へ向けられた想い、技法、色彩はすべてオリジナルな表現です。構図にはTomo氏独自のスタイルが特に色濃く反映されています。そして、「墨」と「コーヒー」という独自の素材から生まれた深く複雑なブラウンが、美しく自然な風合いにまとめ上げています。多くの色を用いず、濃淡によって作品のダイナミクスや雰囲気、創造された物語を巧みに表現している面も、特出しているポイントです。また、細部に込められたこだわりが、信頼感、軽快さと明快さ、線の柔軟性、表現力豊かな輪郭などを生み出しています。これらはすべて、アーティスト・Tomo氏独自の創作表現の特徴といえます。

さらに、作品において私が特に高く評価するのは、モチーフが生き物であれ、無機物であれ、静物画を描くように美しい画面構成が成功している点です。この点に、Tomo氏の美的感性が集約しています。“本物のアーティスト”はモチーフを通して、その時代、嗜好や習慣、社会の情勢を反映し、歴史的なディテールを伝えてきました。Tomo氏も同じように作品世界の中に、自身のライフスタイルやバックグラウンドを反映させ、その効果として、モチーフには生命が吹き込まれ、活き活きと見えてくるのです。物事の多面性、日常生活の中に隠れているかけがえのない物事を親しみやすく、そして美しく、活かしています。

Tomo氏が描く花瓶やポット、植物、動物などのモチーフはごく身近なものですが、その表現はきわめて緻密です。画面構成の美しさに加え、細部まで描きこまれたモチーフ達は、画面の中で流れる時間をゆったりと過ごしているようです。また、Tomo氏はコーヒーの文化をよく理解しています。人々の癒しとなり親しまれてきた、コーヒーの文化。温かな温度感と共に、今もなお人々の休息の際に好まれるコーヒーがもたらす癒しの意味をよく理解し、作品の世界観へ反映していると感じます。長閑な雰囲気、コーヒーを題材に選んだ意味を、鑑賞者はしみじみと感じとることでしょう。

また、一見して、Tomo氏の作品の色彩は落ち着きのある色彩で統一されています。シンプルな色で創られた作品ですが、この色合いは優れた色彩感覚を持っている者にしか表現ができません。選んだ色のニュアンスを非常に細かく研究しています。豊富な色彩を用いるよりも、シンプルな色の中に豊かさを感じさせる表現は、色彩をマスターしたアーティストの特徴です。また、単一的な色というよりも、Tomo氏はより自然な色合いを選び、その色合いを通じて受け手に気持ちや意味合いを伝えています。

他にも、物語のような多面的な画面作りは、とても日本のアーティストらしく、その細部まで精巧に構築されています。はっきりとしたアウトラインを以って描かれた生き物や植物は、実に高い表現力で美しく描かれ、街並み、森の動物たち、箱舟に乗る生き物達の物語が「ここ」から始まっていくようです。

このような自然の色とその様々な色合いが、独特の雰囲気、意味、そしてあらゆるモチーフとの関係性を醸成し、画面に広がる美しい物語を織りなしています。

ドローイングを中心とする限られた手段と、豊かな表現を惜しみなく発揮し、一鑑賞者や美術愛好家の興味をそそる芸術的なストーリーを見事に提示しています。

エルミタージュ美術館学芸員
アレクセイ・ボゴリュボフ

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